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 サンクトペテルプルグはかつてロシア帝国の首都であり、世界でもっとも美しい都市のひとつです。今日でもそこにはいぜんとして帝国の威厳が、またたぐいまれな完璧さとみごとな美とによってきわだつ建築的な容貌がのこされています。
 長く静かな街路、列柱の規則的なリズム、上空にむけて突き出た尖塔、丸屋根、そしてネヴァ川沿いにはしる平らな花こう岩の堤防が、すばらしい建築的な舞台をかたちづくります。そのなかでももっとも輝いている真珠のひとつぶが19世紀の最初の∋O年間に建てられたミハイロフスキー宮殿です。ロシア本国のみならず世界においても、最大にしてもっとも代表的なロシア美術のコレクションが見出されるのがここに、その厳格な古典的なファサードの背後にあります。
 人は自分の歴史を理解するためにいろいろな方法をとるものです。歴史上の事象は時を経て黄色くなった古文書の紙の上で示されます、年代記や研究論文のページの上に構成される出来事の論理的な連鎖を通して。しかし、過去の現実はおそらく美術館にある具体的なモノによってもっともよく表わされます。それに、歴史の生きた精神、いわゆる時代精神はとりわけ美術館や絵画館の収蔵作品に宿っています。部屋から部屋へとめぐりながら芸術作品を見て、鑑賞者は過去のページをめくるようです。
 この歴史の数ページが本展で日本の美術愛好家に示されます。
 真の芸術というものは国境を知りません。そのことばはけっしてつねにやさしくないとはいえ、永遠にして普遍です。ここに展示された作品が、このことばをじゆうぶんに理解することができるような、あの精神的、知的、感情的な波動の上にのる一助となることを念願しております。
 世紀の転換点でロシアの美術家によって制作されたこれらの作品を研究することで、慧眼なる鑑賞者はこれらわずかな選ばれた作品からも、複雑で矛盾の多い時代の精神的なコンテクストを再構成し、日本とロシアという、ふたつの偉大な、古来の文化間の密接な内的な接触、相違と近似、独自性について考えをめぐらせることができます。
 とはいえ、そうした深刻な思考や一般化を敬遠されるむきに対しても、本展はまさに楽しく、また有意義に時間をすごす機会を提供するものです。なぜなら、偉大なる芸術は翻訳者や通訳を必要とせずに万人に理解できるものだからです。
 本展にはこれまで外国の鑑賞者には閉ざされていたロシア・アヴァンギヤルドのもっとも輝かしい1ページがあります。毎朝、ほぼ100年にわたり、あらゆる国の、数多くの老若男女がこの国立美術館の部屋を通りぬけて、戸外の雑踏からはるか離れて、きわめて特殊な世界に足を踏みいれました。その世界は千年にわたるロシア美術史、千年にわたるロシア史を包摂しています。毎年、入館者の波が押し寄せ、50万人にも達し、各自が美術家と美術館員がその仕事にこめている精神的なあたたかみのようなものを受け取って帰るのです。本展により遠方の−しかし私たちとかけ離れてはいない−日本に新しい友人を得ることはたいへん喜ばしいことです。





国立ロシア美術館長   
ウラデイーミル・グーセフ


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